溶接強度評価について アルミ溶接4種類の引張試験

溶接強度評価について アルミ溶接4種類の引張試験

これまで、昔ながらの町工場の溶接屋は、取引先の製作図面の指示に従って部品を溶接し納品するという下請けの仕事を続けてきました。職人の勘と経験に基づいた手作業に頼る仕事が多く、客観的な評価やデータ分析はあまり行われてきませんでした。

しかし、時代は大きく変化しています。お客様が求める溶接のニーズも多様化しています。半導体製造装置、電池・インフラ系、自動車・輸送用機器、電機・電子部品、ロボット・工作機械などの業界にも対応できるよう、私たちも進化していかなければなりません。

そこで、笙磨溶接では2019年ごろから溶接強度評価を実施し、技術向上に努めてきました。

湖西テストラボ合同会社と株式会社応用技術研究所へ、アルミ溶接に関する分析を2019年に依頼した時の結果を、以下にまとめます。



目的と実施方法

溶接強度を評価するため、湖西テストラボ合同会社へ委託して引張試験を実施しました。

試験の概要

 ①4種類のアルミA1100、A2017、A5052、A6063について、
  製品(1本)および溶接品(3本)の試験片を用意しました。

 ②湖西テストラボ合同会社へ委託し、試験片の金属材料引張試験
  (JIS Z 2241、島津製作所製AG-X使用)を行ないました。

 ③引張試験後の破断面を電子顕微鏡で観察しました。
  (走査型電子顕微鏡装置 日本電子製JSM-6010PLUS/LA)

 ④株式会社応用技術研究所へ委託し、以上②~③の結果から
  考察と強度評価を得ました。




結果と考察

溶接不良を除く全ての試験片(溶接品)は、溶接部ではなく母材部分で破断しました。溶接した部分の強度や剛性は、母材の強度よりも高いことが分かりました。

「溶接強度は溶接部と母材の硬度を管理することで客観性が担保される」という応用技術研究所の評価が得られました。

溶接時の熱の影響で、母材部の引張強度が低下する一方で、母材の延性は増す傾向にあります。母材の材料特性を把握して熱を管理し、溶接技術の向上と品質改善に努めていきたいと考えております。



4種類のアルミ溶接に関する強度評価(引張試験)結果一覧

4種類のアルミA1100、A2017、A5052、A6063、について、それぞれ製品1本および溶接品3本の引張試験をおこなったところ、以下のような結果が得られました。

引張試験結果




アルミ溶接4種類 各材質の試験片について

今回試験した4種類のアルミの材質(A1100、A2017、A5052、A6063)について、各材質の特性と、2019年に実施した強度評価試験の結果をまとめます。
笙磨溶接への依頼を検討されているお客様のご参考になれば幸いです。




アルミ A1100

【材質の特性】
A1100は純度99%以上の純アルミです。電気・熱伝導性、加工性、耐食性に優れていて、建材、熱交換器部品などに使用されます。A1000系は他のアルミニウム合金に比べて柔らかいという特性があります。
A1100
 
【強度評価】
A1100について、2019年の引張試験では、全ての試験片は母材部で破断しました。

母材部でカップアンドコーンが見受けられたことから、引張試験による塑性変形が母材部に生じ、延性破断に至ったことがわかります。
溶接部の強度や剛性は母材強度よりも高く、引張試験の結果は母材強度に左右されることがわかりました。母材の引張強度が低下する主な原因は、①溶接ビートを研磨したときの研磨ミゾ、②溶接時の熱による母材の焼きなまし、③溶接部と母材の剛性の違いによるせん断力で生じた割れ、という三つの要素であると推測されます。

A1100に関しては、研磨方法と熱の入れ方の改善、材料の特性の把握などを通じて、更なる溶接品質向上を目指していきます。




アルミ A2017

【材質の特性】
A2017はジュラルミンと呼ばれ、2000系アルミ合金を代表する材質として知られています。Al-Cu系合金とも呼ばれ銅を含むため、腐食環境で使用する場合は十分な防食処理が必要となります。高い強度があり機械部品(特に航空機、ギヤー、油圧部品など)に使用されます。
A2017

【強度評価】
A2017の試験片(製品)は引張方向に対し概ね45度方向で破断しており、引張荷重に対して生じた面内のせん断力によるすべり破壊と判断されます。
一方で、試験片(溶接品)は局所的な変形が起きて歪な形状で破断しており、溶接部分の内部から生じたへき開破壊だと考えられます。この原因は、溶接時にA2017(ジェラルミン)の合金に含まれる銅が熱と冷却で肥大化し、粒内破壊が生じてボイド化し、内部欠陥に成長して破断に至ったものと考察されます。また、電子顕微鏡観察においても、試験片(溶接品)からは巣形状と樹枝状結晶(デンドライト)と推定される形状が見つかりました。
A2017電子顕微鏡写真

A2017について、2019年の引張試験結果から求められた引張強度は再結晶化した銅の影響による可能性が大きいと考えられ、溶接部の正確な強度評価には至りませんでした。

合金内に含まれる銅の再結晶化を防ぎ、均一に微細化された状態を保つことで、強度増加につながります。
品質向上に向けて、A2017溶接時の最適な入熱量と常温に戻す冷却時間を見出していきたいと考えております。




アルミ A5052

【材質の特性】
A5052は中程度の強度を持った、最も代表的なアルミ合金(Al-Mg系合金)です。耐食性、溶接性、成形性が良く、疲労強度が高いため、多方面で使用されています。耐海水性も優れています。一般板金、船舶、車輌、建築などに使用されます。
A5052

【強度評価】
2019年の試験では、3本の試験片(溶接品)のうち②と③は試験片(製品)と同様に、せん断力による母材部のすべり破壊で破断しました。一方で、試験片(溶接品)①は溶接部で破断しており、その原因を調べたところ、溶接の溶け込み不良が破断の起点になったことが分かりました。
溶け込み不良を除いた試験片(溶接品)は母材部分で変形・破断していることから、通常の場合、A5052の溶接部の強度や剛性は母材強度よりも高いと考えられます。また、引張試験の結果はA1100と同様に母材強度に左右されることが判りました。溶接時の熱による母材部の焼きなましにより、引張強度の低下や延性の増加が起きると考えられます。

溶接時の溶け込み不良が破断の起点になるという結果を重く受け止めて、試験の翌年度から溶接不良への対策を強化しました。
不良が発生しにくい作業条件・作業環境の構築、製品検査手法の改善、従業員の技能向上などに努めております。




アルミ A6063

【材質の特性】
A6063は複雑な断面形状に成型できる代表的な押出用アルミ合金(Al-Mg-Si系合金)です。A6061よりも強度は劣りますが、耐食性、表面処理性に優れています。優れた押出性をいかして、建築用サッシなどの構造材として使用されています。
A6063

【強度評価】
A6063について、2019年の引張試験では、全ての試験片は母材部で破断しました。溶接部および熱影響部では破断していません。破断形状には、延性破断の特徴であるカップアンドコーンが見受けられ、引張試験による塑性変形が母材部で生じたことがわかります。

ただし、試験片(溶接品)③については、溶接ビートと母材の境界に微小な割れが確認されました。割れの原因は溶接開始時、もしくは終了時の溶け込み不足と考えられます。溶接部の割れよりも、母材部分での材料降伏が先に始まって破断に至っていることから、充分な溶け込み部分においては溶接部の強度は母材よりも高いことがわかります。

なお、2019年の試験では、破断時の試験片(溶接品)の断面積は試験片(製品)の36.4 %となっており、延性が大幅に増加したことがわかりました。溶接時の熱により母材部が焼きなましされて性質が変化し、添加材料Si(シリコン)の再結晶化によってA5000 番の延性に近づいた可能性があります。

A6063に関しては、溶接時の熱による性質の変化をよく考慮し、材料特性を把握して溶接の品質向上に努めます。



まとめ

今回の事例では引張試験後の破断面を詳細に分析することで、内部の組成や結晶といった金属組織の状態を確認し、さらには溶接による金属組織の変化を推測するなど、外からは測り得ることができない部分を評価して頂きました。

強度評価試験を実施したことで、普段の業務とは異なる視点から、溶接の技術や材料特性を改めて見直す機会が得られました。ご協力いただいた皆様に感謝します。

「こういう溶接部品がほしい」「このくらいの強度が必要」…というようなお客様のご要望に対応できるよう、社内の知識と技能の向上に励んでいきたいと思います。

詳細を知りたいお客様は、こちらの記事 をご参照ください。株式会社 応用技術研究所様からの報告書(14ページ)をそのまま掲載しています。

弊社ではお客様のご要望に応じて随時、溶接強度評価を承ります。
担当されている部材の溶接強度について不安や疑問を抱えている場合には、笙磨溶接までご相談ください。



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